菰野町の湯の山温泉にある「旅館 寿亭」は、明治44年に創業した老舗温泉旅館です。創業当時の趣を残す宿では、6種類のモダンな貸し切り風呂や地元産の食材を生かした季節の食事などのサービスを宿泊客に提供してきました。しかし近年では、コロナ禍による観光客の行動変化の影響や人手不足など、観光業界は厳しい環境変化に直面しています。
それを打開するため、経営改善コーディネーターによるサポートのもとで経営課題と具体的な行動計画を明確にし、従業員全体で取り組んでいく体制の構築に着手しました。また、人材の定着を見据えた職場環境の改善にも取り組んだ結果、若い従業員の定着率向上などの効果が少しずつ出始めています。
どのような相談をしましたか?
時代とともに変化する顧客ニーズへの対応やインバウンドの開拓が課題となっている中、コロナ禍で停滞した需要の回復が喫緊の課題となりました。
寿亭が持つ強みや魅力を改めて整理し、従業員一丸となって集客に向けたプロモーションや顧客対応の充実につなげていく必要がありますが、その一方でそれを担っていく人材の不足も悩みの種となっていました。
特に若い従業員の定着率がなかなか上がらないことがネックとなっており、日ごろからその改善策を模索していました。そこで経営改善コーディネーターに依頼し、旅館のブランディングも含めた戦略の立案や、人材の確保・定着に向けた対策などについて助言を仰ぐことにしました。
どのような助⾔を受けましたか?
専門家によるヒアリングの中で経営の現状や将来的なビジョンを整理したところ、経営陣が考えている経営目標が現場のスタッフにまで十分に浸透していないという問題点を指摘されました。これを踏まえ、専門家からは以下のような助言をいただきました。
提案1:経営重点計画を作成し、従業員間で共有すること。
提案2:働きやすい・働きがいのある職場環境を再確認し、人材の定着率向上を図ること。
提案3:経営課題に粛々と取り組むマネジメント体制を構築すること。
特に提案3のマネジメント体制の構築については、それぞれの経営目標の達成に向けた行動計画を策定し、現場スタッフも交えたモニタリング会議を月に1回開いて課題解決に取り組むことなどを具体的にアドバイスされました。
改善提案を受けて何をしましたか?
専門家によるサポートを受けながら行動計画を作成し、ブランディング戦略やインバウンド対策、人材対策などを具体的な経営課題として設定しました。その中でもブランディング戦略については、旅館のブランドコンセプトやターゲットとなる顧客層を改めて明確にし、従業員間で共有することとしました。
さらに、旅館の魅力を整理して発信する媒体を選定し、より戦略的にターゲット層にアプローチしていく方針を打ち出しました。また、これらの経営課題や目標それぞれについて推進担当者を決め、年間の行動計画に沿ったモニタリング会議を毎月開催しています。
会議には経営者や管理職だけでなく現場スタッフも参加し、各従業員が垣根を越えて意見交換しています。従業員の定着率向上に向けては、現場の声を取り入れて職場環境の改善につなげるため、定期的な面談を実施することにしました。
⽀援を受けてどのように変わりましたか?
さまざまな課題の中でも、特に従業員とのコミュニケーションを積極的に取ることを意識するようになりました。実際にお客様と接する立場である現場スタッフならではの意見や提案も多く上がるようになり、トップダウンだった以前と比べて職場の風通しが良くなったと感じます。また、先輩スタッフたちが新人スタッフをフォローする雰囲気が醸成されたことで、若手従業員の定着率も少しずつ向上する好循環が生まれています。
ブランディング戦略やインバウンド対策など検討課題はまだありますが、今後も毎月開催しているモニタリング会議や定期的な面談を通し、問題点の指摘や改善の声にはしっかりと向き合っていきたいと思います。
旅館の経営では、お客様はもちろんそこで働く従業員も含めた「人」がすべてです。寿亭で働くことを選んでくれた従業員との縁を大切に、これからも成長とやりがいにつながる職場環境の整備に努めていきます。
行動計画
経営重点計画を作成し、共有を図る
社長業- ブランドコンセプト、ターゲットを再設定し、従業員間で共有を行う。また、魅力を戦略的に伝えるために、魅力の整理し、媒体を選定する。
人材の定着率向上を図る
人材不足- 従業員との定期的な面談を実施し、「働きやすい、働き甲斐がある職場」の再確認を行う。
経営課題に粛々と取り込むマネジメント体制の構築
組織体制- 各経営目標、経営課題項目で推進担当者を決定する。年間計画を作成し、これに沿ってモニタリング会議を開催する。(月1回)